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今世紀百物語

生きているのか死んでいるのか

弁護士が主人公の映画の事

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 先日,「ブリッジ・オブ・スパイ」っていう映画を見たんですよ。

www.foxmovies-jp.com

弁護士が主人公の映画なので見たんですが,なかなかよかったです。

 

みなさんどうせ見る気ないと思うのでネタバレ上等で書きますが,主人公の弁護士が交渉をする映画です。

交渉のネタは,アメリカで捕まったソ連のスパイ(主人公の弁護士が過去に弁護した依頼者),ソ連で捕まったアメリカの軍人,東ドイツで捕まったアメリカの大学生の3人で,交渉の場所はベルリンです。

冷戦時代は東ドイツの中にベルリンがあって,ベルリンは東西に分けられていて,東と西の間は電車が通っているけれども,ベルリンの壁というのもあって,行き来はできるけれども,自由には行き来できない,という状況になっていたわけです。東西冷戦のフロンティアでした。アメリカとソ連の交渉の場所にはもってこいで,ドキドキ感を盛り上げるにもぴったりの交渉場所です。

 

この交渉の背景事情としては,

  • ソ連は,アメリカで捕まったソ連のスパイと,ソ連で捕まったアメリカの軍人とを交換したい
  • 東ドイツはソ連とは別の思惑があって,アメリカで捕まったソ連のスパイと,東ドイツで捕まったアメリカの大学生とを交換したい
  • アメリカ政府は,アメリカの大学生よりもアメリカの軍人を取り返して欲しい

という状況で,ソ連のスパイとアメリカの軍人を交換するしかないと考えるのが普通ですが,ところがどっこい,主人公の弁護士は,アメリカの大学生も,アメリカの軍人も,両方取り返すことを試みるのです。

普通に考えたら,ソ連のスパイ1人を返す代わりに,アメリカの軍人&アメリカの大学生の2人を取り返すなんで,対等な交渉にならないので,成立しそうにないじゃないですか。しかしながら,ここで主人公の弁護士は,弁護士の交渉方法を使って,これを実現しようとするわけです。

「弁護士の交渉方法を使う」と言うと,どうせだましたり,すかしたり,裏をかいたり,脅したりといった,うさんくさくてグレーな交渉テクニックを使って成果をだまし取るのだろう,という,非常に浅はかで低レベルな認識の人もいるかもしれませんが,そうではありません。交渉相手が本当に求めているものは何なのかを洞察するわけです。盗撮するのではありません。表面的にはゼロサムで合意の余地などないように見えても,お互いが本当に求めているものをお互いに満たすことができれば,交渉は成立するわけです。

 

しかし,こういう映画がつくられて,しかもそこそこ客が入るという事実から,アメリカにおける弁護士というものに対する一般の理解の深さがうかがわれます。こういう映画は別の国では作られなさそうです。ドラマだって,弁護士が主人公のSUITというアメリカの面白いドラマがありますが,あれも,弁護士というものに対する一般大衆の理解がなければ作られないだろうし,流行らないだろうと思います。

他方で,日本で弁護士が出てくる映画やドラマは,全然レベルが低くて見ていられません。たいていは刑事事件の弁護人ばっかりで,しかも自ら捜査して真犯人を捜し当てちゃったりして,現実味に欠け面白くありません。刑事事件の弁護人は弁護士の醍醐味だということは否定しませんが,映画やドラマの弁護士が刑事弁護人ばっかりなのは,世間一般がそれしか知らないからなんだと思います。

ご存じのとおり,ミステリーの世界で起こる犯罪はドキドキわくわくしますが,現実の世界の犯罪なんか何ひとつ楽しいことはありません。弁護士=刑事弁護人という頭の人にとっては,弁護士についても同じことが言えるでしょうから,ドラマの中の弁護士はかっこいいと思うかも知れませんが,現実の弁護士に対しては嫌悪感を示して「どうして悪い人の味方をするのか」などという物事を深く考えたことがないことがバレバレな質問をするに違いありません。

民事事件の弁護士を思い浮かべても,少し考えたら,頼んでメリットがないような業務が世の中に存続するはずがないことくらい分かりそうなものですが,弁護士=頼んだら金をふんだくられて損する,というイメージを持っている人も多く,だから,弁護士に頼まずにネットや無料法律相談で生半可な知識を仕入れて,自分で交渉したり訴訟したりし,独自の見解に基づく主張をしたり,裁判を口ゲンカかなんかと勘違いしてわめきちらしたりして,関係者を困らせ,結局,自分の権利を実現できず損するわけです。

いつか日本の本当に面白い弁護士映画やドラマを見てみたいです。